7月3日RADIO BERRY、FM栃木へ「教えてドクター」のコーナーの収録に行ってきました。6月下旬にお声がけ頂き、翌週に収録に至るという飛び道具的なスケジュールでしたが、意外と何とかなるもんですね（笑）。

　今回、最近話題の「睡眠負債」と「睡眠時無呼吸」についてお話しをさせていただきました。

　「睡眠負債」はNHKスペシャルで取り上げられて以来、関心が高まり、言葉自体もかなり浸透してきているのではないでしょうか。因みに睡眠負債とは、「慢性的な睡眠不足が借金のように積み重なり、心身に悪影響を及ぼす可能性のある状態」を指し、スタンフォード大学のデメント教授により提唱された言葉です。日本人は全ての世代において世界有数の睡眠時間が短い国。この日々の睡眠の借金がコツコツと何十年も積み重なった結果、様々な病気を引き起こしたり、発症年齢を早めると言われています。最近のトピックスは「睡眠負債と認知症」。脳に蓄積した老廃物が脳機能を障害し認知症に至ることは既知の事実ですが、リンパの流れが無い脳内ではどうやって老廃物を排泄しているのだろう？と長年よく分かっていませんでした。ただ、どうも寝ると老廃物は排泄されるよね！という事だけは分かっており、その仕組みがやっと最近解明されてきました。実は脳内のグリア細胞という細胞が就寝中に小さく縮小することで脳脊髄液の流れが速まり、その結果老廃物を静脈へ押し流す！ということのようです。これこそが唯一の効率的な老廃物の排泄方法で、寝るだけで脳内が清掃されてしまう、まるでお掃除ロボットのような仕組み。ヒトの身体はまだまだ神秘に満ちた未知の領域がたくさんあります。たった一晩徹夜するだけで脳内には老廃物が多数溜まり、それにより低下するパフォーマンスの程度は、血中アルコール濃度が0.1％の状態に等しいと言われています。酒気帯び運転の基準は呼気中アルコールが0.15mg/L。血中アルコール濃度に換算すると0.03％だとか。つまり、たった一晩の徹夜状態で酒気帯び運転以上に判断能力を低下させていることを意味します。しかし、それもただ「寝る！」ことによって老廃物が排除され、まるでゴミ屋敷のようだった脳内がきれいに清掃されるのですから皆さん、「十分寝る！」って想像以上に大切だってことが何となくご理解いただけたでしょうか。

　当院を受診される睡眠時無呼吸の方の多くが睡眠負債を併せ持っており、無呼吸が無い方でも睡眠時間を見直したり、「寝る→起きる」の時間を統一されることで眠気の軽減や改善に至るケースがよくみられます。睡眠負債によるリスクを無呼吸によってさらに助長していますので是非、睡眠は「質」と「量」の両面から大切にして頂きたいと思います。

　収録の中でもお伝えしたことですが、生活習慣病を発症し始める40代、そしていよいよ身体の機能がどこかしら衰え始める50代。この年齢層の方々には無呼吸の存在を一度確認して頂けたらと思います。その理由は無呼吸だけを治療するのではなく、そこに関連している疾患（生活習慣病、心血管疾患、脳血管障害、うつ、肥満、認知症、ガン…etc）の発症を遅らせたり、進行を遅らせる補助的な治療効果にも期待ができるからです。

　ある韓国のDrが昨年大変興味深いことを言っていました。ある時、朝起きると最近枕に抜け毛が付く量が増えたなぁと思ったことがきっかけで、ふと自分の無呼吸を調べてみたら自身が無呼吸だった。よって治療（CPAP）を開始したことをきっかけに睡眠と薄毛（AGA）のリサーチを行ったところ、慢性的な睡眠不足（睡眠負債）が最も薄毛を早め、次に早めるのが睡眠時無呼吸だったという事を昨年の日本睡眠学会で発表されていました（遺伝的要因も含む）。まさか、AGAにまで睡眠が関係しているとはそれまで全く考えていなかった私には大変衝撃的な話しで、他科の先生方の報告も併せて考えると、頭の先から足の爪の先まで、外観、中身（内臓）全てが正常に機能する（させる）ためには正しい睡眠がとれていなければいけないんだな！。言い換えれば正しく寝るだけで、健康って十分手に入れられるんだ！と私の中の認識に至りました。

因みに耳鼻科的には聴力も朝より晩のほうが低下するのだそうです。他、耳鳴りや難聴、めまいなども睡眠負債や睡眠時無呼吸によって起こりやすい、もしくは増悪させやすい可能性があります。

　寝るのは怠けている！という認識の強い日本人が睡眠の認識を根本から変える時が来ているのだと思います。このことに共感し実行して頂ける方が少しでも増えていく事を願ってやみません。

　放送は7月8日（月）アサ9：10頃～10分ほど。7月中、4週に渡って放送されますので機会がございましたら聴いてみてください。

　因みにRADIO BERRYのHPより「POD CAST」を登録していただくと過去の放送分が聴けるとのことですので、ちょうど仕事が始まるため自身で聴けない私はここから聴いてみようと思います（自分のを聴くって少々こっぱずかしい気もしますが（笑））。

　実は開業した年にこの番組に出させて頂き、今回12年ぶりの出演となりました。次はあるのかな？もし、また12年後だったとしたら何歳だ…？

　う～ん、こういったことは考えないでおこう…